このページを開いたあなたは、きっとご自身の出産体験に何らかの“トラウマ”を抱えているのではないでしょうか。
トラウマ、というと少し重たい感じがするかもしれません。
言い換えると
「疑問」や
「心残り」
という感じでしょうか。
幸せや感動などのイメージが強い出産。
でも、誰もがそんなハッピーな出産ができているのかというと、決してそうではありません。
実は、出産前後の出来事は産後の女性の記憶に強く残るので、出産時のトラウマ的できごとや感じたことなどを産後引きずってしまうことも少なくないのです。
「痛み」自体は案外すぐに忘れるものですが、そのときの不安・後悔・ショックなどはすぐに切り替えのきくものではありません。
今回は、出産トラウマについて深く掘り下げて、お話をしていきたいと思います。
あなたの出産の満足度は、何%でしたか?
「本当に感動的な出産だった!」
「すべてが理想通りの出産だった!」
そう思える人ばかりではありません。
お産の満足度は、人によって大きく違うものです。
例えば…
- 出産に3日かかった
- フルコースお産
- 緊急帝王切開
- 墜落分娩や急速な分娩の進み
などなど、出産そのものが特殊で「難産」だったケース。
あるいは…
- 自分が想像していた出産と違った
- 助産師や医師への疑疑問や不満
- 安産への努力が報われなかった
- 冷静を保てずパニックになってしまった
- 夫や両親からの言葉に傷付いた
などなど、出産の中で心にわだかまりが残る出来事があった場合も、同じく出産トラウマを抱えることがあります。
しかし、出産が終わるとすぐに育児に突入します。
赤ちゃんはかわいいですし、やらなければならないことが増え、それに伴う悩みも出てきます。
すると、出産時のトラウマや心のわだかまりが解消されないまま、時が過ぎてしまうのです。
母として強くあろうとするため
「そんなこと言ってられない!」
という感じで、自分の気持はおざなりになってしまうことも少なくありません。
周囲の家族や友人も
「大変だったね。」
「出産大変だった?」
と声をかけてはくれるものの、出産に対してネガティブな思いばかり話すのも気が引けたり、じっくり話す時間がなかったりもしますね。
そうこうしているうちに、出産トラウマはどんどん固く固着してしまい、メンタルバランスを崩す原因になるのです。
産後トラウマと「産後うつ」「産後クライシス」との関連性
出産トラウマは、現代の女性に多い「産後うつ」や「産後クライシス」との関係も深いと考えられます。
産後うつ
出産のわだかまりを解消しないまま怒涛の育児に突入してしまうと「産後うつ」になりやすいでしょう。
マタニティ・ブルーズという現象をご存知の方は多いと思います。
【マタニティ・ブルーズとは?】
出産の後、急に涙が出たり、不安を感じたり、気分の浮き沈みが激しくなるなどの精神的症状が特徴です。
産後すぐ、もしくは2~3日以内に始まって、2週間以内で消失する生理現象。
(マタニティブルーという言葉がありますが、こちらは医学用語でありません。一般的に、妊娠中のホルモンバランスの変化によって起こる情緒不安定のことを指すので、マタニティ・ブルーズとは別物です。)
マタニティブルーズは、出産を経験した日本人女性の20~25%に見られる現象であり、異常ではないと考えられています。
普通は自然と症状が消えていくもので、産院を退院するころには改善されていることがほとんど。
ただ、中には2週間以上マタニティ・ブルーズの症状が消えずに産後うつに発展してしまうケースもあります。
実際に、入院中にマタニティ・ブルーズを経験した人は、経験しない人の4倍ほど産後うつのリスクが高まるとも言われているのです。
出産のトラウマや心のわだかまりがあるとき、このマタニティ・ブルーズの症状が起こりやすくなり、長引きやすくもなります。
また、その心のモヤモヤを解消しないまま新しい生活がスタートしてしまうことが産後うつの引き金となる可能性も。
産後クライシス
「産後の恨みは一生」とも言われるほど、産後に起こるできごとは記憶に残りやすいもの。
もちろん、産後だけでなく出産の直前~最中~産後に渡って、同じことが言えると思います。
- 命がけで痛みや苦しみに耐えながらも、意識がはっきりしていること
- 母親として出産の最中も様々なことに気を配っていること
- 肉体的精神的な疲労
- 自律神経の乱れ
- ホルモンバランス
産後は身体的・精神的な原因によって、周囲の環境に敏感になっている状態です。
人間はそもそも、嬉しいことよりも嫌な出来事の方が記憶に残りやすいと言われています。
産後はなおさら、嫌なできごとが記憶にも残りやすくなるでしょう。
よく、出産中夫が横で寝ていたり、のんきに食事をしていたりすることに腹が立ったとか、気が利かなくて思わず怒鳴ってしまった、殴ってしまったという話も耳にしますよね。
普通の状況ではそこまで気にならないことも、自分が極限まで切羽詰まっていると、些細な刺激にも敏感になってしまうものです。
(もちろん、夫がのんきにしているのを見て腹が立つ気持ちは分かります。)
こういった出来事がきっかけで、出産を機に夫に対する見方が変わってしまうことは非常に多いです。
また、夫だけでなく義母が原因となっていることも。
義母の心ない一言や厳しい態度などが心の傷となって、夫に対してもいい感情を持てなくなるという可能性は大いにあります。
他にも
- 出産の大変さを分かってくれなかった
- 話をちゃんと聞いてくれなかった
- 否定するようなことを言われた
など、産後のメンタルを受け入れられなかった、という経験をした人も産後トラウマを抱えている可能性があります。
自分を責めないこと
出産トラウマの中でも「難産」だったケースの人に多いのは
自分を責めてしまい、気持ちがさらに落ち込んでしまうこと。
例えば
- 普通分娩で埋めなかった私
- 赤ちゃんがNICUに入ったのは私のせい
- 妊娠中の生活が悪かったから難産になったのでは
- あのときこうしていればもっとスムーズなお産だったのでは
というような考え方。
「出産が理想通りにいかなかったのは、自分のせいだ。」と考えないで欲しいのです。
あなたは何も悪くありません。
出産は命がげで、絶対というものではないのです。
難産となってしまった場合や、理想通りに出産が進まなかったのは、ママの努力不足などではありません。
努力すれば安産になる、と決まっているのであれば世の中に難産の人はもっと少ないはずですよ。
産後トラウマの解決方法
産後トラウマを解決するには「出産のふり返り」をすることです。
バースレビューとも呼ばれ、一部の産院や、産後の女性を支援する活動などで行われています。
しかし、まだまだ普及率は多くなく、初めて聞く言葉だというママも多いのではないでしょうか。
出産前に、産婦人科や助産院で「バースプラン」を書いた人もいると思います。
(バースプランの普及率も、実際のところ満足とは言えない状況です。)
どんな出産をしたいかというプランを練るのがバースプランです。
その反対で、今度はどんなお産だったかというふり返りを行うのが、バースレビューです。
バースレビューと称さなくても、助産師さんや看護師さんが産後に病室を訪ねてきて、それぞれの出産について話をしてくれることもあります。
ですが、その目的を知らないと、遠慮して本当の感想を言えなかったり、適当に答えてしまったりすることもあるはずです。
出産をふり返り、自分の思ったことを吐き出すのは、あなた自身の心を調整して今後の育児に備えることに繋がっていきます。
お産のふり返りを、まずは自分で冷静に行ってみましょう。
紙やノートに、自分の出産の記録を書き出してみます。
形式は自由。
日記のようにつらつらと書いてもいいし、時系列できっちり書いてもいいですね。
肝心なのは
「怖かったこと」
「嫌だったこと」
「さみしかったこと」
など、ネガティブな感情をどんどん書き出すことです。
その後、自分の母親や夫、友達など信頼のおける人に、バースレビューの必要性を話して聞いてもらえると最高です。
話す相手は出産経験のある人や女性など、自分の立場により理解のある人。
もしくは自分の妊娠~出産までの様子をよく知っている人を選びましょう。
もし知っている人で話しやすい人がいなければ、子育て支援などの育児相談や、電話相談を利用しても構わないと思います。
自分が吐き出しやすい方法を選んで、とにかく出産に対する本音をぶつけましょう。
話したり、書き出したりすることで自分の感情や出来事を整理し、認めてあげること。
これが、バースレビューの必要性です!
出産トラウマ実体験
ちょっとここで、私の体験談をお話しさせてください。
私は男の子2人の出産経験がありますが、下の子の出産がとてもトラウマです。
産後うつとまではいきませんでしたが、産後数カ月間はメンタル面でのバランスがおかしく、いろいろと苦労しました。
私の場合とても安産だったのですが、精神的につらいお産でした。
予定日当日、そろそろ寝ようかと布団でごろごろしていたところ規則的なお腹の張りを感じ病院に連絡、すぐに入院することに。
入院したのは夜中の12時でした。
私の産んだ産婦人科では、面会時間外は家族の立ち入りすら一切禁止。
当然立ち合い出産も実施しておらず、面会時間外は付き添い人も出されてしまいます。
(防犯上の理由だそうです。)
例え赤ちゃんが生まれても、面会時間になるまでは夫すら入れないという厳しい病院でした。
真夜中の病院、電気はすべて消えており、廊下・階段も薄暗く、陣痛室とナースステーションだけに明かりがついていました。
荷物を病室に置き、着替えをして陣痛室に案内されて横になります。
看護師さんはすぐにナースステーションに行ってしまい、去り際に
「痛くなったら教えてくださいね。」
とひとこと。
経産婦はあまり相手にしてもらえない、という話を思い出しました。
スマホで動画を見たりしながら、なんとか時間をつぶすことに。
しかし陣痛に耐える間、誰もそばにいないのはとてもつらかった……。
だんだん痛みが増してくる。
痛みの範囲が広がってくる。
震えてくる。
息が苦しくなってくる。
だんだん、本やスマホを見る余裕もなくなりますが
経産婦なのでこんなの序章だってことも分かります。
ひたすらひとりで静かに耐えるしかない状況が、とても心細かったのです。
心細さと、痛さと苦しさに耐えること3時間半。
思い切ってナースコールしました。
「あの…けっこう痛くなってきました…。」
そう言うと、看護師さんは
「じゃっ、歩けなくなる前に分娩台乗りましょうか。」
午後3時半、シーンと静まり返った分娩室に入り、分娩台に乗ります。
分娩台に乗った後も、看護師さんは
「じゃっ、破水したら教えてくださいね~。」
と言い残してナースステーションに。
え~っ、また一人で耐えるのか…。
と思いつつ、一人でいきみ逃しなどをやって耐えていると、破水。
「あの…破水したみたいです……」
とナースステーションに向かって声をかけると、看護師さんはようやく私のそばで作業を始めます。
先生は多分寝ていたので、電気が眩しいって感じの険しい表情で登場し、無事出産に至りました。
正直とてもさみしかったし、心細かった。
赤ちゃんも一瞬だけ見せてくれたけど、すぐに連れて行かれてしまいまたひとりに。
生まれたのは午前4時20分。
面会時間は…午後2時から。
家族に会えるまで10時間近く、またひとり。
吐き気で起き上がれないので、分娩台に乗ったまま。
ご飯が運ばれてくるれけど、分娩台の横にドンって置かれたまま。
分娩台の上に5時間横たわったままで体が痛いので、車いすで病室まで運んでもらいますが、興奮状態なので全く眠れず。
でも、家族がくるのはあと5時間後…。
本当に、さみしかった。
ただ、とても安産だった。
何の問題もないお産だった。
だから
「恵まれた出産だった」
「いい出産だったと思わなきゃダメだよね」
と、自分に言い聞かせていました。
でも、本音はやっぱりさみしくてつらいお産だったんです。
お産自体はとても順調だったし、赤ちゃんも元気いっぱいでした。
なのに、ストレスをや不満を抱えていることを、すごく贅沢だと思ったりも。
さみしさとか心細さなんて、赤ちゃんの健康や母体の健康には変えられないものだと信じて、なかったことにしようとしてきたのです。
出産トラウマの種類や自覚時期はさまざま
私のように、出産自体は安産だったのに、心にわだかまりが残るというケースも多いです。
例えば、
- 出産の痛みでパニックになってしまった
- 泣いたり叫んだりしてしまった
- 助産師さんや看護師さんに言われた言葉に傷付いた
- 助産師さんや看護師さんの態度が威圧的だった
- 一緒に入院していた人や、出産が重なた妊婦さんと比較された
などなど、出産自体は問題なく安産で終えたけれど、その周辺で起こるさまざまなできごとにモヤモヤを感じたということは少なくないでしょう。
(上の事例は、私が実際に産院で見聞きしたことです。)
ですから
「こんなことで文句を言ってはいけない」
「こんなことを不満に思っちゃだめ」
と感情を閉じ込めることはないのです。
自分の出産をふり返ったときに、自分で自分の感情を認めてあげることがとても重要なのです。
尚、バース・レビューを実践するのは、産後すぐでなくても構いません。
「私は出産にわだかまりを持っている。」「モヤモヤした気持ちがある。」と思ったら、そのときにふり返りを行えばいいのです。
例え数年前の出産でも、当時のことを思い出すともやもやした気持ちになったりすることもあります。
実際に私も、さみしい出産だったことを友人に話せたのは産後1年以上たってからでした。
自分の気持に蓋をしたまま、なかったことにしてしまうのがいちばんよくないことです。
バースレビュー・カフェや助産院で話す
自分自身でお産をふり返るだけでも効果はありますが、
より効果を高めるには、他人に評価や共感をしてもらうことです。
実際に人に話して、
「それは嫌だったよね」
「つらかったね、頑張ったよね」
と認めてもらうこと。
信頼できる人からの評価を得ることが、バースレビューの効果を高めます。
夫や産院の関係者、ママ友などでも良いでしょう。
もしそういったことを相談できる場所がないなら、サークルを利用するという手段もあります。
こちらは漫画「お産トラウマは怖くない!」の著者、尚桜子さんが立ち上げたサークルです。
こういったワークショップやサークルは、数は多くないですが実際に行われています。
助産院などでも実施しているところがあるので、参加できそうな場所はないか探してみてはいかがでしょうか。
こういった場所では、皆が同じ悩みをもち、話し合うために集まっています。
なので
「相談するタイミング」や
「雰囲気」
を気にせず、遠慮なく話ができるところがメリット。
同じような価値観、感受性を持ったママが集まっていることも多いでしょう。
また、周囲のママの中にもお産時にいい思い出がないという人は一定数いるはずです。
あなたや私と同じように、
「言いにくい」
とか
「話す機会がない」
というだけで、心の奥底に眠らせているかも。
もしも機会があるのなら、そのようなお産の深い話をしてみるとよいと思います。
さいごに
出産は、ハッピーなものでなければいけない。
命の誕生やそれに携わる人に感謝しなければならない。
そんな風に、優等生ぶる必要はありません。
大切なのはあなたの感情を認めること、赤ちゃんをよりよい環境で育てることです。
まずはママが自分の心を大事にしてあげることから、これからの新生活が始まるのではないでしょうか。
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