赤ちゃんを母乳で育てることは、生物学的には当然のこと。
妊娠・出産・育児には
「自然であること」
がよいこととされる風潮が強いですよね。
特に母乳育児に対しては、世間のママたちの関心も強いです。
“母乳神話”の賛否は世間でも大きな話題となり、母乳をあげることがいかに大切かを力説する専門家や、完全母乳にこだわって相当の努力をしているママも少なくありません。
でも、全ての人が母乳をあげたい、母乳育児がしたいと思っているでしょうか?
その答えは「NO」。
世の中の母親の中には、「母乳をやめたい」「母乳がつらい」と感じ、日々悩んでいる人も多いのです。
母乳を続けることがストレスになっていませんか?
母乳はとにかく吸わせれば出るようになるとか、最低でも3カ月は続けなければ満足に出るようにはならない。
出産後の指導、育児書やネットの情報などではこのような話が多く聞かれます。
「最初から出る人なんかいない。」
「とにかく根気が大事だよ。」
産院の助産師さんがよく言う言葉です。
もちろん、根拠もなく言っているわけではありません。
根気よく吸わせることで赤ちゃん自身が乳首を上手くくわえられるようになったり、乳腺が刺激されて母乳の分泌が促進されたりします。
実際に、最初は満足に母乳が出なかったけれど、根気よく吸わせたら出るようになったという経験談も多いですし、熱心にマッサージや母乳外来に通うママもいます。
また、母乳の分泌はいいけれど、様々な理由によって母乳を続けることがストレスになることも少なくありません。
しかし母乳が出るのにあげない、という選択肢は産院の助産師や看護師からすると「言語道断」という雰囲気すらあります。
痛くても苦痛でも、当たり前のことだと信じて母乳を与えているママが、ほとんどなのではないでしょうか。
でも、それが「正しいこと」というわけではありません。
やらなければならないことでもありません。
だって、つらいと思いながら母乳をあげ続けるのって、ものすごくストレスではありませんか?
ストレスを溜めながらでも母乳を続ける必要は、はっきり言ってありません。
授乳の時間は赤ちゃんとお母さんの、大切なコミュニケーションの時間です。
そんな大切な授乳時間を、ママは強い苦痛を我慢しながら過ごしているって、なんだかおかしいと思いませんか?
母乳をやめたいと思う理由は、人それぞれですが、
母乳をやめることより、ストレスを抱えながら我慢して継続することのほうが、よっぽど間違った育児方法なのではないかと考えます。
※ただし初乳の時期だけはしっかり母乳をあげるべきとされています。
初乳とは産後1週間前後の間に出る黄色がかったとろみのある母乳で、赤ちゃんにとって多くの健康効果をもたらします。
生後すぐの時期にしか出ないものなので、とても貴重です。
ただ、産後1週間は産院で過ごしているママが圧倒的に多く、多くの方が問題なく飲ませることができているでしょう。
母乳をやめたい!その理由とは?
あなたが母乳をやめたいと思っている理由は何ですか?
この「やめたい理由」も、ママを苦しませている要因のひとつなのではないでしょうか。
実際に母乳をやめたいと思っているママたちの、その理由を調べてみたところ…
・母乳の出が悪い
・腹持ちが悪く頻回授乳
・乳首が痛い
・張りによる痛みや乳腺炎
・吸われることが苦痛
・人に見られるのが嫌
・早く仕事復帰したいから
・お酒を飲みたいから
(下の子の妊娠や薬の服用など、母乳を継続したいけどやめざるを得ないなどの理由は、今回の趣旨に合わないので除いています。)
この他にも、細かい心情による理由などはたくさんあるのでは、と思います。
この理由の中にも、状況の違いがけっこうありますよね。
例えば、そもそも母乳の出が悪いのでやめたいという人はやはり多いです。
一方、母乳自体は問題なく出るけれど、母乳をあげる行為自体が苦痛という人もいます。
- 乳首が痛くて、くわえさせるのが苦痛
- 人前で授乳しなければならない
- 授乳するために、隔離されなければならない
- 大好きだったお酒を解禁したい。
- 仕事復帰するために、赤ちゃんが母乳に執着しないうちに断乳したい
一見、贅沢な悩みであるように思えるかもしれませんが、それを選択するのは自由。
「母乳が出るのにミルクに切り替えてはいけない」
という法律があるわけではありませんし、どんな理由でも母乳をあげるかあげないかはママ自身が決めていいのです。
そしてその選択に対して、間違っているか正しいのかを判決することのできる人など、どこにもいません。
だって、授乳をするのはママ以外の誰でもないのですから。
他のママと比べないで!
生後3カ月以内で母乳をやめるママは、一般的に少数派です。
すると、
”母乳を継続できない自分”
“母乳をやめたいと悩んでいる自分”を
他のママと比べて落ち込んでしまうママも多くなります。
この比較するという行為はとても大きなストレスとなり、心の傷にもなりかねません。
「みんなは普通にできているのに、私にはできない。」
「私は当たり前のことができない母親だ。」
こんな風に、他人と比べることで自尊心に傷がついてしまうのです。
また、3カ月続けられなかったという挫折感が、ママの精神を苦しめることも少なくありません。
「自分には根性がない」
「母親として情けない」
こんな風に考えがちです。
さらに、産後数カ月はホルモンバランスが乱れている状態なので、こうして悩むことは余計にメンタルに支障をきたします。
特に母乳は、ママが赤ちゃんにしてあげる基本中の基本の仕事であることは事実。
そのため「母親として」という土台を失ったような気持になってしまうこともあるでしょう。
母乳の良さは百も承知、でもミルクの力もすごい!
ここでは、母乳育児とミルク育児、どちらを選択してもよいということがお分かりいただけるよう、それぞれのメリットとデメリットをまとめました。
母乳育児のメリット
- コストがかからない
- 免疫が含まれている
- 手間がかからない
- スキンシップができる
- 産後ダイエットに効果あり
ミルク育児のメリット
- 授乳量がはっきり分かる
- どこでも授乳ができる
- 誰でも授乳ができる
- 食事や嗜好品の制限がない
- 腹持ちがいい
- 授乳頻度、授乳時間が決まってくる
母乳育児のデメリット
- 赤ちゃんを預けにくい
- 消化がいいので授乳回数が増える
- 授乳する場所が限られる
- 薬や嗜好品が制限される
- 食事内容に気を遣う
- 母体からのウイルス感染
- 母体からの有害物質汚染
ミルク育児のデメリット
- 免疫が含まれていない
- 子宮の回復が遅くなる
- コストがかかる
- 調乳に手間がかかる
- 出かけるときに荷物が多い
いかがでしょうか。
母乳育児も、ミルク育児も、どっちもどっちではないですか?
それぞれに利点と欠点があり、どちらを選択しても間違いではないということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
人が手段・方法を選択することは自由です。
ぞれぞれの家庭で教育方針が違うのと同じ。
正しいほうを選ぶのではなく、自分に合った方法を選択すればよいのです。
生後1カ月で母乳をやめた私の体験談
私は2人の息子を育てていますが、ふたりとも生後1カ月~2ヵ月の間に母乳をやめています。
【私が母乳をやめたいと思った理由】
- 息子が母乳を上手く飲めない
- ミルクの方がよく飲んだ
- ミルクの方が早く授乳が終わる
- 授乳するとき隔離されるのが嫌だった
【長男のとき】
長男出産後は、母乳の出はそこまで悪くなかったように思います。
ただ、退院したころから、息子が母乳を上手く飲めないためか、授乳のたびに怒って泣くようになりました。
上手く飲めなくて泣いているのか、出が悪くて怒っているのかもはっきり分からず、原因不明の不機嫌さが続いたのです。
授乳が上手く進まないのでミルクをあげると、勢いよくグビグビと飲んで満足する息子。
母乳よりミルクを飲みやすそうに、美味しそうに飲む息子に対し、
「母乳をあげる意味ってあるのかな…?」
という気持ちが芽生えたのです。
でも、母乳が出ないわけではないのでとりあえずくわえさせなければいけない。
「根気よく飲ませていれば、赤ちゃんも上手になるから。」
助産師さんに言われたことが頭の中を反芻します。
でも、正直ミルクの方が飲みやすそうだし本人も満足している。
「どう考えてもミルクの方が楽だよなぁ…。」
でも、生後1カ月ちょっとで母乳をやめるという選択をすることは、母親として非道な感じがしました。
- 努力しない親
- 楽な方を選ぶ親
- 子供のことより自分のこと
自分に対してこのような気持ちを強く抱き、さらにストレスを感じるように。
しびれを切らし、泣きながら夫に相談すると夫は
「なんでダメなの?ミルクでいいじゃん!俺もあげられるしさ。」
と、何の迷いもなくあっけらかんと言ったのです。
男性からすると、効率よく育児ができればそれでいいと感じられた様子。
そんなに悩みながら母乳をあげるなんて、逆に不自然だと話していました。
産後、母親の頭の中は考えが偏り過ぎてしまうのでしょうか。
出産の記憶、疲れ、突然始まる育児、助産師や医師に言われたこと、様々な育児情報…。
母親は産前産後を通して、ほとんど「赤ちゃん」のことしか考えていないことが多いもの。
産院と家の中だけで慣れない育児に没頭し、考えが偏りすぎてがんじがらめになってしまうことがあるのではないでしょうか。
私の場合、夫の意見や第三者の意見を聞くこと、自分の正直な気持ちを打ち明けたことで、母乳をやめたいと思うことは悪いことではない、と分かったのです。
【次男のとき】
我が家の両家の実家は遠く、両親も仕事を持っているので、長期的に手伝いを頼むことができず産後3週間で普通の生活を始めることになりました。
そのため朝は支度や家事、長男の送り迎え、夫のお弁当作りなど、朝の時間に制限されることが多くとても大変でした。
次男は家族と一緒に起きるので、朝の忙しい時間帯に授乳をしなければなりません。
母乳をあげる場合、方乳20分くらいずつ吸わないと満足しない次男。
しかし、朝の忙しい時間に合計40分も授乳をしている余裕なんて、正直ないのです。
一方ミルクの場合だと、15分~20分で既定の量を飲み干すことができました。
短時間でしっかり満足し、再び眠ってくれたりするので、当然ミルクをあげる頻度の方が多くなり……。
全部ひとりでやらなければならないワンオペ育児の中では、赤ちゃんと心を通わせながらゆったり母乳をあげることは到底無理でした。
出産前は、長男のときより育児に対しての知識や気持ちの余裕があるので、母乳育児もうまくいくかもしれないと思っていました。
しかし2回目は、気持ちに余裕はあっても時間に余裕がなく、母乳育児は断念。
2人目のときは結局私には母乳育児は向いていなかったのだな、とすんなり気持の整理をつけることができました。
赤ちゃんや親子関係にとって一番大切なこととは?
赤ちゃんや、親子関係、家族関係。
ここで一番大事なことは、なんだと思いますか?
それは、「ママが笑っていること」です。
母親は家庭の中の太陽のような存在であるべきです。
それは母親はどんな時でも明るく笑っていなければいけないとか、弱音を吐くなということではありません。
いつも自然な気持ちでいて欲しいということです。
赤ちゃんとしては泣きながら母乳をくれるより、ニコニコ話しかけながらミルクを調乳してくれたほうが幸せです。
自分に合った方法を選んで、ムダやストレスを軽減することも、大事なことではないでしょうか。
さらに、
「母乳をあげたくてもあげられない人もいるんだよ。」
こういう助言や意見は、気にしないこと。
母乳をあげたくてもあげられない人のために、授乳をするわけではありません。
性格や生活環境、置かれている状況が全く違う他人と比較しても意味がありませんよね。
大事なことは、赤ちゃんとお母さんが自然体で笑えることなのですよ。
さいごに
この記事は、母乳育児よりミルク育児の方が良いと提唱しているわけではありません。
母乳など必要ないと言っているわけでもありません。
ママの負担を少しでも減らし、自然で穏やかな育児をしていくためには、手段を選ぶことが大事だということを伝えたいです。
母乳をやめることに対し、意志が弱いとか、母親失格だとか、ネガティブな感情を持つ必要はありません。
自信を持って楽しく子育てができるママが、もっともっと増えることを願っています。