産後の女性の体は、全治一か月のけがを負った状態と同じとも言われるほどダメージを受けている状態。
最低でも1カ月間はゆっくりと安静に過ごす必要があるとされています。
でも実際のところ
「産後すぐに家事や育児で動かざるを得ない」
というママも決して少なくありません。
核家族化が進んでいる現代の日本では、里帰りせずに出産する人や、夫婦二人だけで産後の生活を乗りきらなければならないという家庭は年々増加しています。
そこで、気になるのは
「産後の女性が動き過ぎたら、どのような影響あるのか」
ということではないでしょうか。
産後思いの外体調がよくついつい動きすぎてしまった場合、後々になって体に影響が出るということはあるのでしょうか。
今回は、頼れる人がいないママに向けて産後の体を最低限守るためのコツなどを含めてご紹介していきたいと思います。
なぜ産後に動きすぎてはいけないの?
そもそも、なぜ産後は安静にしなければならないのでしょうか?
自分の体調さえ良ければ、少しくらい動いたり出かけたりしてもいいのでは……と思ってしまう人もいるでしょう。
しかしママ本人の感覚以上に心身はダメージを受けているので、過信してしまうことがないように気を付けましょう。
まずは産後の体がなぜ休養を必要とするのかをまとめてみます。
1. 出産による疲労の蓄積
まず、出産による疲れやストレスが解消されないまま育児に突入するので、心身ともに疲労が蓄積している状態です。
産院への入院はせいぜい1週間程度。
その入院自体も、慣れない場所で眠ることや母子同室によるプレッシャーの多い生活など、完全にリラックスして休養できる状況とは言い切れません。
入院中さえしっかり休めばOKというわけではなく、むしろ退院してからこそしっかり休養をとるべきなのです。
2. 子宮・骨盤の回復
産後は「産褥期(さんじょくき)」という、元々の体の状態に戻っていく期間となっています。
※産褥期とは……
妊娠・出産により大きく変化した体を回復させるためにとても大切な期間です。
「褥」の字が「布団」という意味で、古くから産後1ヶ月間は布団を敷きっぱなしにしてしっかり休むことが大事だという意味が込められています。
この産褥期は、産んでから6週間~8週間までの期間。
1ヵ月~2ヵ月の間は、まだまだ子宮や骨盤の状態が不安定になっています。
子宮が収縮を繰り返して元の大きさに戻っていくことを子宮復古と言い、産後5週間前後をかけて元の大きさになります。
骨盤も出産後はぐらぐらの状態で、歩くことや立ったりしゃがんだりするのが非常に負担となるので注意しましょう。
実際のところ、産後の体が完全に回復するにはもっと長い期間が必要です。
せめて産褥期だけでも体を労わる必要があります。
3. マタニティブルーズ
マタニティブルーズとは、産後1~2週間前後に見られる気分の落ち込みや不安間などの精神的な症状のことを言います。
これは異常というわけではなく、急激なホルモン変化による生理的な現象です。
長くても2週間程度で症状がよくなるものですが、場合によっては2週間たっても改善が見られず「産後うつ」に発展してしまうこともあります。
このようなホルモンの影響による精神的な問題も、リラックスした環境でじゅうぶんな休養を取ることが解決のポイントとなるでしょう。
4. 授乳・おっぱいの不調
産後すぐからはじまる「授乳」も、産後のママの体と心への負担が大きくなりがちです。
順調に何事もなくおっぱいが出る場合、授乳を「幸せ時間」と捉えることができます。
しかし授乳の悩みは産後の悩みの大部分を占めることも多く、体調不良や疲労の原因にもなります。
・乳腺炎
・分泌不足
・乳首の痛みや出血
・胸の張り
・肩こり
・母乳が出すぎる
このように母乳に関する悩みや手間、不調は数多く、産後のママの負担になることも少なくありません。
5. 慣れない育児による体への負担
産後の体の不調は、子宮や骨盤・悪露などだけではありません。
・腰痛
・肩こり
・腱鞘炎
長時間の抱っこや、慣れない姿勢での授乳などによって、肩や腰などに痛みが出ることも少なくありません。
また抱っこでの寝かしつけによる、手首の腱鞘炎なども多く聞かれます。
赤ちゃんのお世話は無理な体勢や長時間同じ姿勢をとることが増えるため、体のあちこちに負担がかかって痛みや疲労感がつきまといます。
6. 慣れない育児による心への負担
産後すぐの「慣れない育児への不安」は最大のストレスと言っても良いのではないでしょうか。
・泣き止まない
・長時間抱っこしないと寝ない
・起きてしまうので布団に下ろせない
・おっぱいが足りているのか分からない
・育児のことで頭がいっぱいで、思考が偏る
などなど、
「育児が思うようにいかない」
「想像していた生活と違う」
などのストレスやプレッシャーも、大きな疲労感となります。
産後の動きすぎと更年期障害
産後にしっかり休まないと更年期になってからガタが来る
という話を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
実はこの説にはっきりとした科学的根拠はありません。
更年期障害は、閉経後女性ホルモンが急激に減少することによって起こるもの。
産後にゆっくり休養をとったかどうか、という問題が直接的な原因になっているとは言えないでしょう。
また、関節リウマチも産後の生活と関係があると言われていますが、同じく医学的根拠が実証されているわけではありません。
関節リウマチは、更年期障害を発症するのと同じタイミングで発症することが多いです。
関節痛やリウマチは圧倒的に女性に多い病気であることから、エストロゲンが関係している病気であることは確か。
しかし遺伝的要因も大きいもので、産後に動きすぎたことが原因かどうかが決定的な原因になっているとは言えません。
更年期障害、関節リウマチともに閉経前後になってみないとその結果が分からないものという点から見ても、直接的な関係があるとは言えないでしょう。
産後の動きすぎはダメ、分かっちゃいるけど…?
「最低でも産後1カ月は、家事をしないで安静にのんびりすごしましょう♪」
というのは、あくまでも理想論です。
退院したその次の日から、ある程度の家事をこなさなければいけない人もいます。
実際に、誰にも頼らず産後を乗り切ってきた人もたくさんいます。
産後の床上げ
産後の肥立ち
という言葉は、古くからある言葉ですよね。
昔は現代とは違って、家族が代々同じ家に住み、家業や農業などをしながら生活世帯が多かったもの。
現代とこれまではまるで違う生活環境なのに対し、産後の女性の体や回復の過程は今も昔も同じです。
「産後は絶対安静!」
「産後は絶対里帰りすべき!」
という意見に押されるのではなく、自分の体を守りつつも無理のない産後の暮らしができるように工夫し、段取りを考えればよいでのす。
産後、誰にも頼らずにやっていくことを話すと
「出産はそんなに甘いものではない」
とか
「無理だと思ってからでは遅い」
などという言葉を聞くこともあるでしょう。
しかし、ストレスを感じてまで里帰りや親の世話になるのは逆効果。
また実家の両親が遠方だったり、高齢だったり、病気を持っていたりと、頼れない事情は色々あるはずです。
実家に頼るのが「当然」という風潮の中で、悩まれている方は多いでしょう。
大切なのは自分たち夫婦だけで頑張ろうという団結力や、覚悟、そして計画です。
決して無謀なことではないので、しっかりとリサーチと計画をしてから出産に臨みましょう!
産後の動きすぎを避ける方法と計画
とはいっても、産後の動きすぎは体の回復を遅らせ、心身ともに疲れやストレスが溜まる要因になります。
できる限り産後の体を守るための方法を考えていきましょう!
1. 夫としっかり話し合い計画をしておくこと
まず夫とはしっかり産後の暮らしについて話し合い、お互いが納得する計画を立てておく必要があります。
その為には産後の女性の体がどのくらいダメージを受けているものなのか、知ってもらわなければなりません。
女性が思っているよりも、男性の出産への認識は甘いもの。
この記事の前半部分はぜひ旦那さんにも読んでもらってくださいね。
そして家事の分担や育児休暇の取り方など、産後の生活を想定してシュミレーションしておきましょう。
ママが一人で考えてお願いするのではなく、一緒に考えて一緒に決めることが大事です。
2. 水仕事禁止は昔の話
現代の生活では、産後の水仕事はそれほど心配しなくてもよいでしょう。
昔は井戸水をくんできてから水仕事をしていたため、水仕事=重労働でした。
それが今でも「産後の水仕事は厳禁」という風に言われている理由です。
しかし現代では洗濯機が当然一家に一台ありますし、食洗器を使っている家庭も珍しくありませんよね。
水仕事をすること自体は、さほど問題ありません。
ただし、冬場の洗濯やお風呂掃除などは避けた方がいいでしょう。
体の冷えの心配もありますし、無理な姿勢や重い洗濯物を運んだりするのは避けましょう。
絶対にできないということはありませんが、コインランドリーの利用や夫にやってもらうなどやらなくても済む方法を考えましょう。
3. 重いものを持たない工夫
産後、重いものを持ち上げたり運んだりするのは避けるべきです。
例えば…
・布団の上げ下ろしや干す作業
・濡れた洗濯物を運ぶ
・買い物
・上の子の抱っこ
など、多いものを盛り上げたり運んだりするのは極力やめましょう。
布団の上げ下ろしや、干す作業は休日に夫に頼むなどして完璧を求めないことが大事です。
どうしても気になるようであれば、上げ下ろしの必要がないベッドでの生活に変更するなどの大改革もアリ。
買物は夫にまとめ買いを頼むか、宅配食材やネットスーパーを利用しましょう。
上の子とのスキンシップは欠かせませんが、立った状態で抱っこしないようにするなどの注意が必要です。
4. 完璧にやろうとしないこと
産後1カ月の間は、本当に最低限の家事だけをします。
意識的に
「あきらめる」
「目をつぶる」
ことが必要です。
普段家事をきっちりやっている人や、きれい好きな人ほどつらいかもしれません。
部屋が散らかっていたり、掃除が行き届いていないことにストレスを感じる場合
家事代行サービスを利用するか、夫にもっと頑張ってもらうしかありません。
あくまでも1カ月間の我慢です。
とにかく自分と赤ちゃんのために、今は完璧を捨てて休むことを最優先に考える癖をつけてください。
5. 民間や行政のサービスを徹底リサーチすること
産後、自分が動けない代わりに民間事業や行政のサービスを大いに利用してください。
どんなサービスがあって、どれくらいの価格でどこまでやってくれるのか、実際に調べてみると意外に使える!と思うことがあります。
最低1カ月、という期限を設ければ必要経費として捻出できるかもしれません。
まずはどのようなサービスがあるかを調べ、シュミレーションをしてみることをおすすめします。
特に上の子がいる場合は、夫婦だけでは難しい場面が多々あります。
ファミリーサポートなどを利用した人の声などを参考に、検討してみましょう。
出典:厚生労働省HP
【宅配食材サービス】
【家事代行・キッズ&ベビーシッター】
【ネットスーパー】
産後、動きすぎてしまったときは?
実際に産後の生活をはじめてみると、ついつい家事をやりたくなってしまったり、上の子の世話をせざるをえなかったりという事態に陥ることもあります。
そんな風につい動きすぎてしまったときは、自分の体調をいつも以上にしっかりと観察してください。
新しい暮らしや育児に必死になっていると、自分の体調が悪いことや疲れがたまっていることにすら気付かないこともあります。
決して自分のことをおろそかにせず、疲れたら休む、ちょっとくらい部屋が散らかったり汚れたりしていても目をつぶるなど、体調を回復させることに意識を回してください。
周囲のサポートを受け入れよう!
夫婦ふたりだけで乗りきるにしても、どうしても無理なときがやってくる可能性があります。
時には誰かのサポートを受け入れたり、頭を下げてお願いしたりすることも必要です。
それは自分の友人やママ友、近所の方でもいいでしょう。
どうしても知り合いに助けを求められない場合は、ファミリーサポートや一時預かり制度、民間の託児所や家事代行などを視野に入れます。
ここで必要なことは柔軟さや臨機応変さです。
基本的には自分たちだけで生活するけれど、本当にしんどいときや困ったときは誰かに頼ることを怖がらないで欲しいのです。
念密な計画や覚悟などももちろん大事なことですが、やはり産後のママの心身と赤ちゃん、そして仕事と家事育児の両立をする夫が健全に暮らせることがいちばんです。
とにかく苦しいときは誰かに助けを求めるなど、柔軟な対応も必要だということを覚えておきましょう。
さいごに
産後に頼れる実家や家族がいないけど、本当に大丈夫なのか。
産後に動きすぎてしまうことで問題が起きたらどうしようという不安が、少しは解消されたでしょうか。
これだけ家庭環境が多様化しているのにも関わらず、産後は里帰りすることや手伝いに来てもらうことが当たり前という風潮はまだまだ根強くあります。
しかし、決して夫婦ふたりでのりきることは無謀ではありません。
産後の動きすぎによるリスクは工夫次第で軽減できますので、自信を持って頑張ってみて欲しいと思います。
具体的な産後の生活のコツはこちら↓↓